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第3回
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講師:
東京海上ホールディングス株式会社 執行役員人事部長
グループダイバーシティ&インクルージョン総括
鍋嶋 美佳氏 -
講師:
東海旅客鉄道株式会社 執行役員
総合研修センター所長
武田 千佳氏
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「東京海上におけるD&I推進と自律的なキャリアの構築」
東京海上ホールディングス株式会社 執行役員人事部長
グループダイバーシティ&インクルージョン総括
鍋嶋 美佳氏
成長戦略としてのダイバーシティ&インクルージョン
世界46の国・地域に4万人の従業員(海外従業員比率40%超)を抱える東京海上グループ。ジェンダー、年齢、国籍、障がいの有無に関わらず、自らの能力を最大限に発揮し、活躍できる世界規模での D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進されています。
不確実な環境・市場の中で成長を続けていくために必要となる、競争優位性、生産性の向上、優秀な人材の確保、グループ総合力の発揮。このいずれにおいてもD&Iが重要であり、「D&Iは成長戦略の一丁目一番地」と鍋嶋氏は語りました。
また、真にインクルーシブなグローバル保険グループになるためのD&Iビジョンとして、以下の4点が紹介されました。
- Attract
誰もが持てる力を遺憾なく発揮できる会社として、多様な人材から選ばれる会社をめざします。 - Empower
全ての社員が存分に活躍できる真にインクルーシブな職場環境をつくります。 - DevelopPromote
全ての社員に活躍の場とさまざまな学びの機会を提供し、社員一人ひとりが、仕事を通じて成長できるよう支援します。 - Retain
公正な評価や適切な処遇で会社と社員の間には、強固な信頼関係が構築されています。
鍋嶋氏は「個人が成長していくこととベクトルを合わせ、会社も成長していくことができる」とコメントされ、従業員ひとりひとりの活躍が重視されていることが伝わりました。
重点課題は「ジェンダーギャップの解消」
ダイバーシティの促進には様々な課題とその施策があるなかで、日本企業である東京海上日動では「ジェンダーギャップの解消」をまず解決すべき重点課題と捉えています。
2005年に始まった「業務革新プロジェクト」を皮切りに、働き方改革、人事制度改定と取り組みを続けられています。取り組みの目的も「役割変革→育児との”両立”支援から”活躍”支援へ→自律的なキャリア構築支援」と変化し、現在は先に述べたように経営戦略としての取り組みに発展しています。
ジェンダーギャップ解消の「目指す姿」は、会社や組織のあらゆる意思決定の場に女性が当たり前に参画している状態。具体的には以下の目標を掲げ、取り組みを続けられています。
- あらゆる意思決定の場への女性参画
「2030年度までに管理職以上の女性比率30%達成」 - エンゲージメントの向上
一人ひとりが自分らしいキャリアビジョンを描き(自律的なキャリア構築)、「働きがい」を実感しながら前進し成長し続けられるための組織風土や働き方の変革
D&Iを推進するポイント
D&Iの取り組みを推進するにあたり、重要なポイントが3つあると鍋嶋氏。それぞれを以下のように紹介されました。
- 育てる側(マネージャー)の意識・行動変革
- i. 3つのKの徹底
期待して、鍛えて、活躍する機会と場を与える - ii. アンコンシャス・バイアスを「知る・気づく・行動を変える」3点セットが叶うプログラムの実施
- i. 3つのKの徹底
- 女性社員の意識・行動変革
- i. 経営リーダー養成プログラム、女性リーダーワークショップ、プレ経営スクール、リーダーシップ養成塾アドバンス、リーダーシップ養成塾、Tokio Marine Group Women’s Career Collegeといった女性社員向けのキャリア研修を充実させている
- ii. インポスターシンドロームワークショップ、メンター制度、女性管理職のネットワーキング、キャリア座談会などを通して女性社員のキャリア構築に関する意識の変革を促している
- D&I浸透に向けた企業風土の醸成
インクルーシブな文化を醸成するためのワークショップを全社員対象に実施
さらに、取り組みを成功に導くカギとして、以下の3点もご紹介くださいました。
- トップのコミットメント(本気度)
経営戦略としてのD&I、メッセージの発信 - 取り組み意義の浸透
役員・従業員一人ひとりがワガコトとして理解 - トップダウンとボトムアップの取り組み
【育てる側】と【育つ側】、【インクルーシブな文化の醸成】タテ・ヨコ・ナナメのつながり
自律的なキャリアを構築する重要性
東京海上グループでは、「きらり☆キャリアアップ応援制度」と題し、自律的なキャリア構築を叶える制度を充実させています。
自分の「キャリアビジョン」を考えること(自律的なキャリアの構築)が大切な時代。キャリアは、やってきた仕事に自分なりの意味づけをすることで形成されると鍋嶋氏はお話されました。
また、バックキャスト思考で計画的にキャリアを進めることも大事だけれど、偶然巡ってきた機会をモノにしていくこともキャリア形成においては欠かせないと、「偶然のキャリア (Planned Happenstance Theory)」をご紹介くださいました。
キャリアの8割は予期せぬ偶然によってもたらされる
より好ましい偶然が起きるよう、偶然を味方につけるための行動や思考パターン
- 好奇心
- 粘り強さ
- 柔軟性
- 楽観性
- リスクテイク
みなさんへのメッセージ
質疑応答では、たくさんの質問が鍋嶋氏に送られ、参加者のみなさんの関心の高さが窺えました。
第1部の最後は、鍋嶋氏から参加者へのメッセージで締めくくられました。
自分自身で、やりたいこと・大切なことはなんだろう?を考えていくことが大事です。D&Iは各社状況が異なると思いますが、ご自身の会社のムーブメントをご自分でつくるくらいの意気込みを持っていただきたいです。アンコンシャス・バイアスとすぐに諦めずに、できることから始めていきましょう。今日の出会いも活用しながら、学び続けていってほしい。応援しています。ともに頑張っていきましょう!
「自身のこれまでの働き方・キャリアを振り返って」
東海旅客鉄道株式会社 執行役員
総合研修センター所長
武田 千佳氏
鉄道業界の働き方
武田氏からは、ご講演を聞くにあたっての前提となる東海旅客鉄道株式会社(JR東海)の事業内容に加えて、専門性で分かれた5つの系統、キャリアが異なる3つの職種からなる働き方が紹介されました。
専門分野5系統:事務、運輸、車両・機械、施設、電気・システム
3つの職種:
- 総合職(様々な部門でマネジメントに携わる)
- プロフェッショナル職(主に鉄道部門で高い技術力・専門性を発揮)
- アソシエイト職(主にオフィス部門において、1つの業務に⾧期にわたって携わる)
JR東海の女性活躍
鉄道の業務には深夜帯労働が不可欠ですが、民営化当時は女性の深夜労働が法令で禁止されていたため、活躍の場に男女差があったと武田氏。法令が改正され、1997年に女性のプロフェッショナル職の採用が開始されて以来、女性の割合も増え、2021年時点で全社員の11.8%を女性が占めています。
2020年7月には女性活躍推進プロジェクトが発足され、行動計画を以下のように策定し、制度の充実、環境整備を促進させています。
- 女性の採用率を拡大します
- 1. 新卒採用における女性の採用率を25%以上とする(全職種において採用強化)
- 女性の配置箇所を増やし、働き方に制約のある社員の活躍できる場を拡大します
- 1. 女性の配置箇所を増やす。育児等により働き方に制約のある社員の活躍の場を拡大
- 女性管理職を増やします
- 1. 女性管理職(課長以上)の人数を1.5倍以上(2020年度末比)にする
- 2. 係長/助役クラス以上の女性の人数を1.5倍以上(2020年度末比)にする
- 女性が能力を発揮しやすい職場風土の醸成と制度の充実を図ります
- 1. 女性が能力を発揮しやすい職場風土を醸成する。
- 2. 仕事と育児の両立を支援するための制度充実
- 3. (男女問わず)年休取得率を80%以上にする。
- 男性の育児参画を促します
- 1. 育児休職又は育児目的休暇を取得した男性社員の割合を30%以上とする
JR東海の女性活躍
入社以来、名古屋・関西・東京の3エリア、管理部門・駅・病院・研修センターと様々な業務を経験された武田氏。「働く中で培った思い」として、以下の5点をご紹介くださいました。
- 総合職という役割の自覚と責任に見合った仕事をする
- 次工程のため、全体最適のために自分にできることを考え、工夫する「逃げない!」
- 細かいことにこだわらず、しなやかかつたくましく
- まずは人間関係(特にOff)、現地・現物・生の声が信頼につながる
- お客様はもちろん、現場とそこで働く人の働きやすさ・やりがいが施策成功のカギ
特に1番目に挙げられた「総合職という役割の自覚と責任に見合った仕事をする」については、思い入れのあるエピソードが。入社当時に指導役であったプロフェッショナル職の男性社員から、「総合職としてキャリアアップしていく道にいる以上、自分たちから見て信頼できる、納得できる上司になってほしい」と伝えられて以来、鉄道業界独特の職種構成のなかで「総合職としての役割を果たす」ことを意識して来られたとお話くださいました。
昇格は面白い!
大変に思われがちな昇格について、武田氏は「昇格をするって、やっぱり面白い」と断言。昇格するなかでの面白みや振る舞いについて、以下のように紹介されました。
- ポストが上がれば、自らが制度や組織をつくる面白さは大きくなり、その範囲も広がる
⇒「もっとやってみたい!」 - 関係者が広がる→自身の幅が広がる→仕事を進めるスキルがあがる
- 人はポストに育てられる
⇒求められる役割をこなせば、ふるまいや姿勢は身につく - 自分には限界でも、部下の発想や知恵は無限
⇒ともに戦い、ともに楽しむ - 「次」が与えられることに感謝
キャリアを続けるために
子育てもしながらキャリアも継続してきた武田氏。子育ての時期と照らし合わせた職務経歴を見せてくださいながら、「家族と職場・上司、それぞれに相談し、理解と配慮を得ながら、与えられた機会を精いっぱい受け止めていった」ことをお話くださいました。
これまでのご経験を振り返って、感じてこられたことを以下のように伝えられました。
- 仕事も家族も、どちらも「自分」のよりどころ
優先順位は変化 どちらも頑張るために準備・手抜き・息抜きも大切に
ありたい姿のための準備は必要 そして相談 - 置かれた場所で咲く。それが次の仕事・機会・ステージにつながる。
⇒信頼される仕事で周囲が期待したくなる存在に - 異動・昇格など経験を広げられる機会は貴重:期待されることに自信を持って
- 社外との人脈づくり、最新の動向からの学びを大切に
みなさんへのメッセージ
グループワークでは参加者のみなさん一人一人がキャリアを振り返り、時間が足りなくなるほどの盛り上がりがみられました。
講演会の最後に、武田氏から参加者みなさんへのメッセージが贈られました。
一つ一つの機会をしっかり自分のものにすることで次のステップにも繋がります。まずは今の場所で「咲く」ことが大切です。グループワークでみなさんがお話されている様子から、ご自分のキャリアを築くなかで今の仕事をどうやり遂げるのがいいか検討されていることを感じました。ぜひその考え方を続けていただき、後続の女性たちの応援もしながら活躍していってほしいと思います。
第3回
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