Event Report

「トヨタ自動車におけるD&I推進と女性活躍」

トヨタ自動車株式会社 執行役員・Chief Sustainability Officer
大塚 友美氏

D&Iを推進する際のポイントとは

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の中で、特に女性にフォーカスして考えてみると、まだまだ社内の女性たちからは悩みの声がたくさん聞こえてくる、と大塚氏。

D&Iを推進する際のポイントは3つあるとし、それぞれご紹介くださいました。

1.自分の個性を活かす

トヨタ自動車株式会社に女性総合職一期生として入社した大塚氏。入社時は「目標は定年退職です!」と冗談半分、本気半分で伝えており、そこには「女性だからといってすぐ辞めると思われても困る。だけども、(当時注目を集めていた)バリバリ働く女性像とはまた違った働き方で、周囲から浮かないようにしたい」という思いがあったといいます。

そんな大塚氏の意識を変えた出来事は、入社10年目に人事に異動して担当した女性活躍のプロジェクト。人と違ってはいけない、と思ってきたけれど、「ダイバーシティ」の言葉に出会い、組織として強みを出すためには一人ひとりの違い、多様性に価値があると気づいたそうです。

その後、「10年先の新しいモビリティを考えるプロジェクト」を担当した際には、業種を越えた多様な仲間と取り組むことで、ダイバーシティが価値を生むと実感。業種によって視点も考え方も違い、それが混ざることによるダイナミズムを大塚氏は体感されました。

昇格の不安を拭った言葉

部長昇格、執行役員昇格の段階で、「これまでと同じ仕事のやり方が通用しない」と空回りを感じた大塚氏を支えたのは、豊田章男社長の『他人と較べないで自分の個性を活かすことを考える』という言葉だったといいます。豊田社長ご自身も、自分の持っているものを磨き続けて今に至っている、と話してくださったそうです。

この言葉を受け取ってから、役職についたからといっていきなり自信が持てるわけではないけれども、自分が人と違うところ、自分が情熱を持てる部分は何かを考え続けながらやってこられたとお話くださいました。

トヨタの取り組み

トヨタでは、D&Iの推進を段階的に進めてこられたと、これまでの遷移を紹介くださいました。

  • フェーズ1 制度拡充
    女性の定着・活躍のための制度整備
  • フェーズ2 定着に重点
    定着を進めるための制度拡充
  • フェーズ3 定着+活躍
    育児者保護から、意欲・やる気を後押しできる環境整備
    活躍の取り組みを拡充
    働き方変革

2.他人の個性も活かす

D&Iを推進する際のポイント2つ目に繋がるご経験として、Gazoo Racing Companyへ異動された際のことをお話いただきました。

Gazoo Racing Companyでの大塚氏のミッションは、モータースポーツとスポーツカーのビジネスをサステナブルに続けていくにはどうすればいいか?を考えること。書類の上で採算性を確保できても、現場にどのように変革を起こせるか分からない…と不安を抱えていました。
その時にも、ヒントをくれたのは豊田社長でした。豊田社長は、現場に訪れると様々なステークホルダーに真剣に向き合い、気づいたことがあればその場で行動を起こしていました。

もらったアドバイスの言葉は「D&Iの第一歩は傾聴と尊重 昨日の正解は今日の正解とは限らない」。
ダイバーシティの重要性を理解していた大塚氏も、ご自分の常識の中でしか人の話を聞いていなかったかもしれない、と我に返ったそうです。
長く続いてきた自動車業界も、昨日の正解は今日の正解とは限らない。様々な人の話を聞いて、意見を生かしていく必要がある、と思い、一人ひとりに興味を持って話を聞き、他人の個性も活かしていくマネジメントを実践されるようになりました。

トヨタの取り組み

トヨタで実施されている全員活躍のための取り組みとして、2つご紹介くださいました。

  1. 人事制度の変革
    「肩書」ではなく、「役割」で仕事をする。年次管理をやめ、働き方や学ぶ機会等資格・職種の制限を撤廃。
  2. 仕事のムダの排除
    生産の現場で続けてきたムダの排除を事務系の職場にも広げる。”ブルシットジョブ”をなくして、意味のある仕事をできるように。

3.多様な人を繋ぐのは「大義」

D&I推進ポイントの最後は、多様な人を繋ぐのは「大義」。多様な人たちがバラバラに動いては何も成し遂げられず、大義に共感して動くことが必要とお話くださいました。

トヨタでは、2020年に創業の精神を再定義した「トヨタフィロソフィー」を未来への羅針盤としています。その頂点には「豊田綱領」があり、ミッション、ビジョン、バリューが連なります。

トヨタの取り組み

織機の会社から自動車の会社に変革し、これからモビリティカンパニーへの変革を遂げようとしているトヨタの象徴的な取り組みの一つとして「WOVEN CITYプロジェクト」があります。「WOVEN CITY」はトヨタのミッションである「幸せの量産」を実現するために、未来の当たり前を発明する技術とサービスの「テストコース」の街です。このプロジェクトはトヨタだけでなく、大義で結ばれたパートナーが一緒に取り組んでいます。

私が心掛けていること

講演の最後に、大塚氏が普段心掛けていることを3点ご紹介くださいました。

  1. ビジネス・パーソンの鎧を脱ぎ一人の人として行動を始める
  2. 武器になる個性を見つけて徹底的に磨く
  3. 目の前の人に興味を持って共に出来ることを考える

みなさんへのメッセージ

参加者のグループディスカッションでは「あなたが今後やってみたい一段上の仕事・担ってみたい役割はなんですか?」をテーマに意見交換が行われ、各グループ盛り上がりを見せました。
その様子をご覧になった大塚氏から、参加者へのメッセージが贈られました。

グループディスカッションを拝見して、みなさん自分のためではなく、地域や後輩のために、といった利他の精神があることを素晴らしいと感じました。自分のために頑張るのは限界がありますが、他者のためならば続けられますよね。
ぜひ、自分が人として自然に感じたことを表し、大切にしながら、より良い社会をつくる変革の力になっていってほしいです。今日はありがとうございました。

「企業経営の新潮流
~持続可能な経営における女性の役割~」

東京都立大学 大学院 経営学研究科 教授
松田 千恵子氏

日本企業を巡る環境変化

松田氏から、人材の多様性が重視されるようになった背景としての日本企業を巡る環境変化について、最初にお話いただきました。

  1. 「経営」の考え方を丸ごと置き換えなくてはならなくなっている
    戦後の経済成長期を支えてきた日本独特の「終身雇用」「年功序列」「協調型組合」等を基本とする経営では成り立たなくなった。事業、組織、財務のバランスを取る本来の意味での「経営」をしていかなければいけない時期に来ている。
  2. 多様性の確保が必須となっている
    成熟経済・グローバル化・非連続的環境となった現代では、環境に順応したイノベーションを生むためにも、多様な人的資源の積極的確保が必要となる。
  3. 企業は有能な個人をつなぎとめる努力が必要になっている
    国家・企業・個人の活動可能域や方向性が同心円状に重なっていた時代は終わり、企業活動は国家の枠を超え、個人は企業の枠を超えてキャリアを形成するようになっている。

変わっていくべきは、企業

時代や環境が変わるなかで、働き手となる個人の意識も変化していると松田氏。
例えば、就職活動を目の前にした学生は、起業やスタートアップ企業への就職といった、大企業でキャリアを積み上げていくこと以外の選択肢も当然のように考えています。企業の人材育成に依存せずに、キャリアを自分で形成していく意識があるのです。

そのような状況下で人材を獲得するためには、企業自身が働き手に選んでもらえるような魅力的な場所に変わっていかなければならないと松田氏は言います。

「マージナル」な存在である女性だからこそのチャンス

企業や人材を取り巻く環境が変化するなかで、これまで「マージナル」(メインではなく周辺に位置づけるの意)な存在であった女性にはチャンスが到来していると言えます。

  • 日本型雇用慣行が通用しなくなったことで、「男女」ではなく「プロフェッショナル度」で評価されるようになる。
  • 誰もが「仕事も生活も」担うことが当然となり、企業や組織に過剰適応していない人ほど、同質化していないがゆえの新しい視点や考えを活かせる可能性が高い。
  • 多様性の確保が企業に与えるポジティブな影響は、意思決定の成功確率を上げることである。そこに行き着くまでの道のりは平坦ではないが、多様性を確保しなければ新しい時代を生き抜く企業としては却ってリスクが高まり、機会を失うことになりかねない。

しかし、これまで男性中心の“特殊合理的”社会で生きていたことにより、女性は役員登用に不安を感じがちです。そんな女性たちの不安を払拭する言葉として、松田氏から以下の5点が紹介されました。

  • 自信が無い
    →実は「自信がある」人などいない
  • 実力が無い
    →身に付ければ良い(「経営」は特に勝負しやすい)
  • ルールを知らない・モデルが無い
    →今までのルールやモデルに縛られている方がマズイ
  • 忙しくなりそう
    →一兵卒の方がよほど無駄に忙しい・景色が見えない
  • 役員責任は嫌
    →事故を起こすのが怖いから車に乗らないのと同じ

経営に多様性を取り入れるならば

組織に多様性を受け入れようとする経営側も、未だに誤解を持ってしまっていることもあるとし、松田氏の研究結果から見えてきたことをご紹介くださいました。

  1. 社外取締役に女性を入れても「お飾り」では…
    女性の社外役員の存在は業績に影響を与えておらず、女性の執行役員が多いほど業績が良好になることが示されている。
  2. 執行役員を増やしても「お決まり」のポジションでは…
    女性の登用が進んでくるなかでも、管掌範囲の偏りが見受けられる(サステナビリティー、ダイバーシティ、パブリシティーに多い)。管掌分野がステレオタイプ的に留まっているのは、多様性を本当に生かしているとは言えない。

自分で自分の船を漕ぐために

これまでの“特殊合理的”社会のしがらみを絶ち、一歩前に進むために、女性たちには以下の5点を意識してほしいと松田氏は伝えられました。

  • 「変化」を担う
  • 批評家然と構えるのではなく、「当事者」になる
  • 評価を得られるような「結果がみえる」ところを選ぶ
  • 「正論」で勝負することでブレイクスルーが起きる
  • まずは半径1メートルから行動を始める

みなさんへのメッセージ

第2部のグループディスカッションでは、松田氏からの投げかけに沿って「しがらみを絶って、あなたが一歩前に進むために(自分で自分の船を漕ぐために)何をしますか?ベイビーステップ(小さな一歩)でOKです!」をテーマに意見交換が行われました。

各グループの共有を受け、最後に松田氏から参加者へのメッセージが贈られました。

グループディスカッションの共有で出た、“講演会や会議の場で前に座る”というのは具体的な行動目標で良かったですね!様々な場でコミュニケーションの質量を増やしていくことで、ご自身が持ち帰れるものはぐんと増えると思います。
経営の勉強は、座学でもできるし、会社のメカニズムを知ることも勉強になります。MBAは経営の免許証のようなものですので、ぜひ学んでみてください。そして、現場体験、修羅場体験ができるところにどんどん飛び込んでいってほしいです。
ぜひ、あと3ヶ月で小さなことでも行動を起こしてください!

2022年9月から続いた全5回の講演会が今回で終了しました。最後に、会場とオンラインとそれぞれで参加者の記念撮影を行い、みなさんそれぞれの決意を胸に散会しました。

第5回
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